【開催報告】第14回研究会

2017年12月16日(土)に開催した第14回研究会も盛会となりました。今回は参加記を愛知教育大学教育学部で学ぶ勝倉明以さんにお願いしました。以下、当日の様子の概要として、ご覧下さい。

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第14回研究会では、明治期の子ども向け日記帳の出版文化に関する研究報告と、2000年代以降を中心に綴られた手帳類に関する特別講演が行われた。

研究報告は明治・大正期を中心とする子ども向け雑誌について研究をしている柿本真代氏(仁愛大学)による、「近代日本の子ども向け日記帳いろいろ~日記帳の文化史にむけて」である。報告では、柿本氏が調査した日記帳(大阪府立中央図書館国際児童文学館蔵、福井県立文書館蔵、柿本氏の古書店での購入品)を事例として、出版社や時代により様々に変わる日記帳の体裁の意味について検討された。報告の最後では、日記帳の文化史を構想するための網羅的な調査の一環として、雑誌紙面と連動した日記帳の広告戦略や、地域の教育との関連性、出版社相互の体裁の影響関係について考察する必要性が説かれた。

特別講演は、「手帳類」プロジェクト(http://jimi.jp/collection/)代表を務める志良堂正史氏による、「手帳類プロジェクトの現在地―同時代の手帳を用いた私的領域の共有・更新・可能性―」である。志良堂氏のプロジェクトは、手帳類の蒐集・展示を中心に活動し、東京参宮橋のアートギャラリー「Picaresque」では手帳の実物を閲覧できる「手帳類図書室」も開設している。今回の講演では、私的領域としての手帳に現れる書き手の内面に読み手が向き合うことで生まれる可能性について、プライベーツマンシップ(privatesmanship)の理念を用いて検討された。

今回の研究会に参加して新たな学びだと感じた点は大きく分けて二点ある。

第一は子ども向けの日記帳と美術教育との関わりである。柿本氏の報告では明治期の綴方教育や「日記文」指導についても触れられたが、質疑応答でも話題になったように、美術教育の一つである臨画教育と「絵日記」の関連性も興味深いと思われた。紹介された日記帳には、夏期休暇中の宿題の一環として、かなりしっかりした絵を子どもに描かせるものもあった。日記帳は、「書く」教育としての綴方教育と「描く」教育としての臨画教育の二つの教育的側面が統合された媒体であるとも言える。学校教育の中でどのように日記帳が使われたのか、時代とともにその位置づけがどう変化したのか、今後の研究の進展が期待される。

第二は、現代を生きる人々が私的領域を書き綴った手帳類が、人に読まれることの面白さである。私的な手帳類を公の場に出し、 様々な人に読んでもらうとは、本来は閉じられた私的領域を公の場に広げることである。それにより開かれる可能性は多々あるだろうが、志良堂氏が示唆したように、同時代に生きる人の私的領域を共有することで他の人々が共感し、生活を豊かにするという発想は大変面白いと感じた。生きづらく、個を尊重し、わずらわしい人間関係をいとう傾向のある現代人とあえて私的な個を共有していくことで、生きやすくなる可能性は充分にあるのではないだろうか。

今回の研究会では、日記帳と手帳類を題材に、過去から現在、そして未来について学ぶことができた。大変興味深い視点を与えてくださったお二人と、参加者・関係者の方々にこの場を借りて御礼申し上げる。

勝倉明以(愛知教育大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修2年)