『日記文化から近代日本を問う』公開書評会(「近代日本の日記文化と自己表象」第15回研究会)のご案内

この度、田中祐介編『日記文化から近代日本を問う』の公開書評会(「近代日本の日記文化と自己表象」第15回研究会)を、3月18日(日)に開催する運びとなりました。

書評会の提題者は、和田敦彦さん(早稲田大学教授)と松薗斉さん(愛知学院大学)がお引き受け下さいました。和田さんは近代日本の読書文化研究、松薗さんは中世日記研究の第一人者です。本書では日記文化を通じて近代日本の「書くこと」を考察しましたが、「読むこと」の研究の立場から、その意義と課題をどう位置づけられるでしょうか。また、近世以前の日記文化との連続と断絶を再考するとき、どのような新たな地平が見出せるでしょうか。お二方の提題ののち、編者と執筆者たちがそれに応答し、続いて来場者全員による総合討論をおこないます。

また、本書の担当編集者である岡田圭介さん(現在は文学通信代表)にもご発言いただきます。広く人文系の学術出版の現況と将来を見据えながら、本書の制作過程と出版物としての狙いについてお話下さる予定です。

初めて研究会にご参加される方も歓迎いたします。どうぞお気軽にご来場ください。印刷物と会場の都合上、事前にご一報頂けると大変ありがたく存じます(nikkiken.modernjapan[アットマーク]gmail.com、代表田中祐介)。

書評会の詳細は下記、ご参照ください。、
当日、会場でお目に掛かることを心より楽しみにしております。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『日記文化から近代日本を問う』公開書評会(「近代日本の日記文化と自己表象」第15回研究会)

【開催日時】
2018年3月18日(日) 13:30-17:30

【開催場所】
明治学院大学白金キャンパス本館8階、81会議室(予定)

【会次第】(13:30-17:30)
1. 導入の部:『日記文化から近代日本を問う』の概要説明 田中祐介(明治学院大学)
2. 書評の部:
提題1 和田敦彦(早稲田大学教授)
提題2 松薗斉(愛知学院大学教授)
編者と執筆者からの応答
総合討論
編集者の立場から 岡田圭介(文学通信代表)

※会の終了後、希望者は懇親会へ

ウェブサイトリニューアルのお知らせ

本サイトは当初、2016年9月に開催した学際シンポジウムの広報用に立ち上げました。その後、研究会の開催案内を中心に更新して参りました。書籍刊行をはじめ情報量が増えたことに鑑み、このたびサイト構成をリニューアルいたしました。各メニューからご利用頂ければ幸いです。投稿記事は「最新情報」のタブからご覧頂けます。

【開催報告】第14回研究会

2017年12月16日(土)に開催した第14回研究会も盛会となりました。今回は参加記を愛知教育大学教育学部で学ぶ勝倉明以さんにお願いしました。以下、当日の様子の概要として、ご覧下さい。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

第14回研究会では、明治期の子ども向け日記帳の出版文化に関する研究報告と、2000年代以降を中心に綴られた手帳類に関する特別講演が行われた。

研究報告は明治・大正期を中心とする子ども向け雑誌について研究をしている柿本真代氏(仁愛大学)による、「近代日本の子ども向け日記帳いろいろ~日記帳の文化史にむけて」である。報告では、柿本氏が調査した日記帳(大阪府立中央図書館国際児童文学館蔵、福井県立文書館蔵、柿本氏の古書店での購入品)を事例として、出版社や時代により様々に変わる日記帳の体裁の意味について検討された。報告の最後では、日記帳の文化史を構想するための網羅的な調査の一環として、雑誌紙面と連動した日記帳の広告戦略や、地域の教育との関連性、出版社相互の体裁の影響関係について考察する必要性が説かれた。

特別講演は、「手帳類」プロジェクト(http://jimi.jp/collection/)代表を務める志良堂正史氏による、「手帳類プロジェクトの現在地―同時代の手帳を用いた私的領域の共有・更新・可能性―」である。志良堂氏のプロジェクトは、手帳類の蒐集・展示を中心に活動し、東京参宮橋のアートギャラリー「Picaresque」では手帳の実物を閲覧できる「手帳類図書室」も開設している。今回の講演では、私的領域としての手帳に現れる書き手の内面に読み手が向き合うことで生まれる可能性について、プライベーツマンシップ(privatesmanship)の理念を用いて検討された。

今回の研究会に参加して新たな学びだと感じた点は大きく分けて二点ある。

第一は子ども向けの日記帳と美術教育との関わりである。柿本氏の報告では明治期の綴方教育や「日記文」指導についても触れられたが、質疑応答でも話題になったように、美術教育の一つである臨画教育と「絵日記」の関連性も興味深いと思われた。紹介された日記帳には、夏期休暇中の宿題の一環として、かなりしっかりした絵を子どもに描かせるものもあった。日記帳は、「書く」教育としての綴方教育と「描く」教育としての臨画教育の二つの教育的側面が統合された媒体であるとも言える。学校教育の中でどのように日記帳が使われたのか、時代とともにその位置づけがどう変化したのか、今後の研究の進展が期待される。

第二は、現代を生きる人々が私的領域を書き綴った手帳類が、人に読まれることの面白さである。私的な手帳類を公の場に出し、 様々な人に読んでもらうとは、本来は閉じられた私的領域を公の場に広げることである。それにより開かれる可能性は多々あるだろうが、志良堂氏が示唆したように、同時代に生きる人の私的領域を共有することで他の人々が共感し、生活を豊かにするという発想は大変面白いと感じた。生きづらく、個を尊重し、わずらわしい人間関係をいとう傾向のある現代人とあえて私的な個を共有していくことで、生きやすくなる可能性は充分にあるのではないだろうか。

今回の研究会では、日記帳と手帳類を題材に、過去から現在、そして未来について学ぶことができた。大変興味深い視点を与えてくださったお二人と、参加者・関係者の方々にこの場を借りて御礼申し上げる。

勝倉明以(愛知教育大学教育学部初等教育教員養成課程美術選修2年)

田中祐介編『日記文化から近代日本を問う—人々はいかに書き、書かされ、書き遺してきたか』(笠間書院)の刊行について

2016年9月に開催した学際シンポジウムに基づく研究書が仕上がりました。
笠間書院より刊行で、2018年1月10日頃には全国書店に並びます。寄稿者には、様々な研究分野の読者、広く一般読者に手に取って頂くために、極力平易な文体で執筆頂けるよう依頼しました。ぜひ、ご一読ください。

書籍の目次詳細と前書き文は、こちらからご覧頂けます。

第14回「近代日本の日記文化と自己表象」研究会開催のご案内

標題のとおり、12月16日(土)に開催します第14回研究会の詳細が決まりましたので、ご案内申し上げます。
今回の研究会は、研究発表を柿本真代さん(仁愛大学講師)に、特別講演を志良堂正史さん(「手帳類」プロジェクト主催)にお願いしました。
柿本さんは、日記帳の歴史に関する先行研究を踏まえつつ、ご自身が収集した子ども向けの日記帳とその収集方法をめぐるご発表をして下さいます。ご発表の副題が示すように、今後取り組むべき「日記帳の文化史」を見据えたご発表になる予定です。
志良堂さんは、現在主催されている「手帳類プロジェクト」(http://jimi.jp/collection/)のご活動を踏まえ、蒐集された手帳類の紹介やプロジェクトの未来、学術利用のご提案などを中心としたご講演をしてくださいます。
第14回研究会の詳細はこのページ下部をご参照ください。

ぜひみなさま奮ってご参加ください。当日は、いよいよ編集作業も大詰めを迎える論文集、
『日記文化から近代日本を問う——人々はいかに書き、書かされ、書き遺してきたか——』の詳細に関してもご報告申し上げます。

研究会はどなたでもご参加いただけますが、会場の都合と資料の部数確保のため、お手数ですが事前に下記アドレスまでご連絡頂ければ幸いです:nikkiken.modernjapan(アットマーク)gmail.com(代表:田中祐介・明治学院大学)
みなさまぜひ奮ってご参加ください。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「近代日本の日記文化と自己表象」第14回研究会

【開催日時】
2017年12月16日(土) 13:30-17:30

【開催場所】
明治学院大学白金キャンパス本館5階、1507教室(予定)

【研究会次第】
1. 報告事項(13:30-14:10)
『日記文化から近代日本を問う——人々はいかに書き、書かされ、書き遺してきたか——』の出版について
今後の研究計画と発表者の募集
日記資料データベースの構築に向けて
2. 研究発表(14:20-15:50)
「近代日本の子ども向け日記帳いろいろ—日記帳の文化史にむけて—」(柿本真代、仁愛大学講師)
3. 特別講演(16:00-17:30)
「手帳類プロジェクトの現在地―同時代の手帳を用いた私的領域の共有・更新・可能性—」(志良堂正史、「手帳類」プロジェクト代表)
※会の終了後、希望者は懇親会へ

【開催報告】チェンマイ大学(タイ)での講演会

2017年8月27日にタイのチェンマイ大学にておこなった講演会について、
主催側のチェンマイ大学人文学部日本研究センターがブログにさっそく記事をアップしてくださいました。
下記リンク先にてご覧下さい。

http://cmujpsc.blogspot.jp/2017/08/#5004673640273504113

きたる9月16日の第13回研究会では、この翌々日にタマサート大学(ランパーンキャンパス)で開催した同様の講演会とあわせ、詳しくご報告いたします。

写真はチェンマイ大学の日本研究センターのロビーで撮影。
チェンマイ大学の日本書籍は北タイでは最大を誇り、12,000冊以上とのこと。漫画もたくさんあります。

第13回「近代日本の日記文化と自己表象」研究会開催のご案内

 2017年9月16日(土)に開催する第13回研究会の詳細が決まりましたので、ご案内申し上げます。
 今回の報告者はお二方で、服部徹也さん(慶應義塾大学大学院後期博士課程)と河西英通さん(広島大学教授)です。
 服部さんは、帝大時代の漱石の教え子が記録した受講ノートと日記を扱ってくださいます。
 河西さんは、編集をお務めになられた『青森県史資料編近現代8「日記」』(2017年3月刊、http://www.pref.aomori.lg.jp/bunka/culture/kingendai08.html)を中心に、
自治体史編纂のご苦労や収録された日記の資料的価値について、お話下さる予定です。
 研究会はどなたでもご参加いただけますが、会場の都合と資料の部数確保のため、お手数ですが事前に下記アドレスまでご連絡頂ければ幸いです:nikkiken.modernjapan(アットマーク)gmail.com(代表:田中祐介・明治学院大学)
 みなさまぜひ奮ってご参加ください。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「近代日本の日記文化と自己表象」第13回研究会

【開催日時】
 2017年9月16日(土) 13:30-17:30

【開催場所】
 明治学院大学白金キャンパス本館9階、92会議室(予定)

【研究会次第】
 1. 報告事項(13:30-14:10)
   論文集の進捗報告
   旧制高等学校記念館・第22回夏期教育セミナー(2017年8月19、20日)の参加報告
   チェンマイ大学およびタマサート大学での講演会報告
   日記資料データベースの構築に向けて
 2. 研究発表(14:20-17:30)
   「受講生の日記からみる夏目漱石の帝大講義――受講ノート調査との接点を視座に」(服部徹也、慶應義塾大学大学院後期博士課程)
   「自治体史編さんと日記資料」(河西英通、広島大学教授)

  ※会の終了後、希望者は懇親会へ

チェンマイ大学(タイ)での公開講演会

 2017年8月27日、タイのチェンマイ大学にて、大学院生向けに「〈日記文化〉から考える近代日本」と題した講演会をおこなってきます。
 チェンマイ大学では一昨年にも講演会の機会をいただきました。その際は田中単独でしたが、今回はプロジェクトの参加者から、大岡響子さん(東京大学大学院)、堤ひろゆきさん(上武大学)も同行し、お話くださいます。モデレータは、チェンマイ大学の西田昌之さん。講演会の様子は、後日、当ウェブサイトにてご報告いたします。
 なお、翌々日である29日には、タマサート大学(ラムパーンキャンパス)でも同様の講演会を催します。一昨年の講演会に際しては、タイ語では「日記」にあたる言葉がなく、英語のDiaryをそのまま用いているという話が印象的でした。ごく近年、2008年のカリキュラム改正後は、タイでも日記指導が学校教育に取り入れられたそうです(西田さん調べ)。その影響と生徒の反応もまた知りたいところです。

【開催報告】第12回研究会

 2017年7月15日に開催しました第12回研究会は、25名がご参加下さる盛会となりました。ご来場下さったみなさま、ありがとうございました。

 第13回研究会は2017年9月16日(土)の開催を予定しております。報告者はお二方、服部徹也さん(慶應義塾大学大学院)と、河西英通さん(広島大学教授)です。また開催の一ヶ月ほどに、詳細をご案内申し上げます。
 今回から、参加記録を持ち回りでつけ、公開することにしました。第12回研究会は、徳山倫子さん(京都大学大学院・日本学術振興会特別研究員DC2)がご担当くださいました。下記、ご参照ください。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第12回研究会参加記

第12回研究会では、「戦後経済成長期のアイデンティティ変容:農村・女性・エゴドキュメント」という特集で、戦後の農村女性をめぐる言説や自己表象に関する2本の研究報告が行われた。

第1報告は、戦後の農村女性が対象となった生活改善普及事業について研究をしている岩島史氏(明治大学・学振PD)による、「高度経済成長期における農村女性の自己表象―生活改善実績発表大会の文集より―」である。今回の報告では、農林省生活改善課により開催された生活改善実績発表大会参加者の体験記が掲載された文集を資料として、農村女性の自己表象について検討がなされた。体験記に記された農村女性像は以下の3パターンに分類された:①1950年代に問題視された農村女性の「過労」からの解放を目指す「新しい農家の嫁」像、②生活改善普及事業に加え都市言説が求める主婦像の影響を受けた1960年代における「農家の母」像、③生活改善普及事業では推奨されなかった女性が農業労働の中心となることを肯定的に綴った「農業者」としての女性像である。生活改善普及事業からの働きかけのみならず都市言説も取り入れ、そしてときに政策意図から逸脱した自らの経験を綴る農村女性の姿が析出されたが、その背景には兼業化の進行や農業・農村の「劣位化」への不安感があったとの見解が示された。

第2報告は、農村部で広く普及した雑誌『家の光』について研究をしている河内聡子氏(東北大学)による、「高度経済成長期における農村女性の理想像をめぐって―「家の光家計簿」の成立と展開にみる―」である。今回の報告では、『家の光』でしばしば付録とされた家計簿を綴るという行為が、『家の光』誌上における「理想的な農村女性像」言説のなかでどのように意義づけられたかについて検討がなされた。女性が家計簿を綴ることは戦前期から推奨されていたが、『家の光』でこれが盛んに説かれたのは1950年代になってからであった。女性が家計簿をつけることは生活の合理化のみでなく、家事を担う女性の家庭内における地位向上に繋る行為であり、農村女性に「主婦」としての主体性を付与するための象徴として家計簿が機能していたという見解が示された。

報告ならびに質疑応答のなかで見出された両報告に通じる論点は、以下の2点に要約されよう。

1点目は、農村女性の「あるべき姿」の変容である。河内報告では、戦前期から見られた「都市を否定して農村に価値を見出す」という言説が1950年代に転換期を迎えていたことが確認できたが、これは『家の光』誌上で企画されたミスコン(「ミス・クミアイ」や「ミス・農協」)においても表象としてもあらわれていた。同誌のミスコンにおける1950年代前半の受賞者のグラビアは野良着を着て汗を流しながら働く姿であったが、1950年代後半には洋服を着てポーズを撮る姿へと変化していた。これは、1950年代に農村女性の「過労」からの解放が求められたという岩島報告における見解とも重なるところであろう。1960年代には『家の光』の他にも新聞やラジオ番組などのメディアから情報を得る機会が増え、都市言説の影響をより強く受けるようになったとともに、母としての教養を身につけることが望まれるようになった。両報告からは、言説空間で望まれた農村女性の「主婦」化と、それが容易に実現せずに現実との折り合いを模索する農村女性の姿が見出されたのではないだろうか。

2点目は、農村女性が「綴る」ことの困難さである。発言力を持たなかった農村女性が私的領域で自己を綴ることは難しく、女性たちが集まる集会などの公的な場において自ら綴ったものを読み、語りあうところから自己表象は行われた。家計簿も例外ではなく、近隣に住む女性どうしで家計簿を見せ合い、互いの家計について問題点を指摘しあうという記事が『家の光』に掲載されていた。フロアからは、河内報告では農村女性の「わたしたち」の意識、すなわち集団的アイデンティティ(「農村の女」・「主婦」・「農村婦人」)が中心に検討されたが、彼女たちの「わたし」の領域、換言すれば集団的規範に必ずしも染まらない私的領域のありかたをどう考えればよいかとの趣旨の質問がなされた。集団的規範への批判や逸脱の事例などを踏まえれば、農村女性の姿をより多角的な視点から描くことができると考えられるが、このようなことを明らかにするうえでの日記資料の可能性についても言及された。農村女性の自己表象を明らかにする試みは始まったばかりであり、多様な史料の発掘ならびに分析が今後も期待される。

徳山倫子(京都大学大学院・日本学術振興会特別研究員DC2)

「書くこと」の歴史を問うためにーー研究視座としての「日記文化」の可能性と学際的・国際的連携

『日本近代文学』第96集(2017年5月)の「展望」欄に寄稿した田中祐介「『書くこと』の歴史を問うために——研究視座としての『日記文化』の可能性と学際的・国際的連携」のPDFデータを公開します。2014年度から2016年度にかけての科学研究費助成事業の成果を踏まえ、近代日本の「日記文化」を扱う意義と今後の展望を考察したものです。ご一読頂ければ幸いです(閲覧は下記リンク先から)

「書くこと」の歴史を問うために